周知のとおり、昨日(6月5日)、大阪地裁第七刑事部は、警察がGPS発信装置を対象車両に無断で取り付け行動確認をおこなう捜査手法についてこれを強制処分と位置づける判断をおこなった*。
<参考>GPS捜査「令状なく違法」 大阪地裁、証拠採用せず
http://digital.asahi.com/articles/ASH6345GCH63PTIL00K.html朝日新聞2015年6月5日付け記事
本決定については、マスコミで細かく報じられているとおりであるし、GPS利用捜査を強制処分と位置づけるべき根拠については本ブログで既に開陳していることから、ここでは本年1月27日に同じ大阪地裁の第九刑事部で示された判断(公刊物未登載)、すなわちGPS利用捜査は任意捜査であるとの判断と比較をおこない、なぜ今回第七刑事部が強制処分性を認める判断に繋がったのかについて解説しておきたい。
便宜上、二つの決定を「1月決定」、昨日の決定を「6月決定」と呼んでおく。
別表に示されているとおり、両決定の比較項目は9つある。
1月決定が任意捜査説に立った最大の根拠は、「本件GPS捜査は、通常の張り込みや尾行等の方法と比して特にプライバシー侵害の程度が大きいものではなく、強制処分には当たらない」という点に求められ、本件捜査でのGPS利用状況に依拠している点にあるだろう。
この点、6月決定は④のようにGPS機能一般にまで検討を広げており、当該技術の性質一般から処分性を判断しようとしている。更に、③のようにGPS発信装置のバッテリー交換のための私有地への立ち入りを6月決定は管理権侵害として重視しているのに対して、1月決定は「管理者の承諾を得ずに立ち入ったことが違法と評価されることがないとはいえないが」と留保を加えつつもさほど重視していなかった。
1月決定が触れなかった項目としては、⑦の他の位置情報取得手法の比較と⑧の警察内部のGPS利用捜査に関わる姿勢がある。
⑦については、知られているように、携帯電話の位置情報取得には基地局にかかる情報取得と携帯電話GPSによる情報取得があり得るところ、6月決定は車両GPS装着について基地局にかかる情報取得よりも精度が高くプライバシー侵害が高度であることを指摘している。
また⑧では、2006年に警察庁から出されていたGPS情報取得捜査にかかる内部規定についてかなり詳細な検討を加え、こうした捜査に関して保秘とする警察の姿勢について令状主義の精神に反すると厳しい見方を示した。
今回の6月決定では、先に紹介した②から⑤に加えて、本件でのGPS発信装置の装着が大規模かつ組織的であることから令状発付の暇もあるとの⑥に関わる判断が強制処分性の承認を導き、更にこうした認定に⑦、⑧が加わって⑨の証拠排除の判断に結びついたと言えるだろう。
重要なことは、1月決定に関わっては弁護人が書面で訴えただけであったのに対して、6月決定に関わっては弁護人が精力的な証拠収集と立証を展開し、裁判体もこれに真摯に応じて審理を進めた点がまったく異なるということだ。そもそも1月決定では④や⑦や⑧等については議論の俎上にも上がっていなかった。他方、6月決定の法廷では管理人も求めに応じて5月15日午後、大阪地裁で専門家証人として証言台に立ち、異例と思われる1時間のプレゼンテーションをおこない、②、④、⑤、⑥、⑦の点について詳細に論じた。 本事案については一部の記者しか注目していなかったため、こうした審理経過の差異などが
昨日の報道等でも一部の新聞社を除いて
まったく報じられていなかった。
これを読まれた弁護士は、法的主張に関してであっても、いかに証拠に基づいて展開することが必要なのかを理解すべきであり、研究者・マスコミ関係者は、出された決定のインパクトにだけ目を向けるのではなくその決定がどうして生まれたかについて、きちんと目配りすべきということである。
この最後の点が、二つの決定から受け取るべき陰のインプリケーションだ。
なお、本記事は、管理人の判例評釈用メモであり一切の引用をお控え頂きたい。また、位置情報取得捜査に関する拙稿も今後断続的に公刊予定である。これらについては公刊時に改めて本ブログで告知する。
(了)