本日、名古屋高等裁判所刑事第2部は、警察が3か月以上にわたり捜査対象者の運転する車両に、令状の取得もないまま承諾なくGPS発信装置を取り付けて位置情報を取得していた事案について、被告人側の控訴を棄却する一方で、以下のような重要な指摘を判決中に記した。
1. GPS利用捜査は強制処分性を有するとした
判決は、確かに「公道上等通常他人から観察されること自体は受忍せざるをえない場面が多く、そのような場所の位置情報を取得するにすぎないという側面」を認めつつ、「対象者に気付かれない間に、容易かつ低いコストで、その端末の相当正確となりうる位置情報を、長期間にわたり常時取得できるだけなく、その結果を記録し、分析することにより、対象者の交友関係、信教、思想・信条、趣味や嗜好などの個人情報を網羅的に明らかにすることが可能であり、その運用次第では、対象者のプライバシーを大きく侵害する危険性を内包する捜査手法であることは否定できない」として、実施状況を検討し、セコムにおいて位置検索結果が保管されていたことを踏まえた上、「本件GPS捜査は、GPS捜査が内包しているプライバシー侵害の危険性が相当程度現実化したものと評価せざるをえないから、全体として強制処分に当たるというべき」と判断した。
2. GPS利用捜査には立法的措置が必要と言及した
これまで下級審ではGPS利用捜査につき強制処分説に立ったものは複数見られていたが、検証許可状で実施すれば足りるという見解であった(大阪地裁決定平成27年6月5日、本判決の原審である名古屋地裁判決平成27年12月24日など)。
これに対して、本判決は、「(GPS利用捜査は)本件が正にそうであったように・・・ともすれば過度の情報収集が行われ、プライバシー侵害の程度も深刻となりうる危険性を相当はらんでいる」と述べて、新たな令状様式の創設が必要という考えを(傍論ながら)示している。「令状の事前提示に代わる条件、検証の対象や期間の特定等、検討を要する種々の問題があり、解釈論的にも解決の必要に迫られているように思われる」として、 強制処分➕立法必要説(つまり、指宿説である)を明示した点が注目されよう。
本件では、捜査の違法を認めつつ、違法性には重大性が認められなかった。そのため、被告人側がどのように考え上告に踏み切るか興味がある。
上記の大阪事件も最高裁に上告中なので、もしも本件で上告されるとGPS捜査の上告事案二件が係属することになり、その判断が注目されることとなる。