最近、法曹にかかわって、大変心を動かされる読み物に
目を通す機会があった。
まずは、樋口和博元判事の随筆集『峠の落し文』(1987
立花書房、2004自主再版)である。
中山研一先生のブログでも紹介されているが、
今日、ほとんど入手が不可能な状態であったのを、院生
の配慮で手にすることが出来た。
奥付けの情報によれば、樋口元判事は、明治42年のお
生まれで戦前より司法官の地位にあり、昭和49年に退
官されたという。
「峠の落し文」というタイトルは、裁判所という厳しい峠道で、
多くの人々がそこを越えながら語るべくして語れなかった
思いを、著者の筆を通して世に文として出すという趣旨の
ようである。
1987年に刊行後、入手困難であったことから、04年に
再版が自費出版のかたちで刊行されたという。
とても透徹した職業人生であったと頭が下がる思いで読み
進めた。それぞれのエピソードもさることながら、芯の通った
お人柄が強く印象に残った。
添えられた俳句の中からもそれが感じられる。
「反骨の生涯(くらし)を悔いず木の葉髪」
多くの、司法関係者、特に裁判官に読んでもらいたい一冊
である。
なお、
裁判官ネットワークのサイトに何編かが転載され
ているので、読むことができる。
石川元也弁護士による樋口元判事の
紹介文もある。
さて、二番目は、熟達の判事とは異なり、まだ法曹として
歩み始めたばかりの若い弁護士たちの奮闘記である。
「季刊刑事弁護」誌で毎年おこなっている、「新人賞」の
審査にことしも当たらせてもらう機会を得た。
応募原稿のすべてに目を通したが、小さい事件、新聞の
社会面で小さい記事にすらならない事件にも、全精力を
傾け、時間と情熱を費やし、情状弁護に向かう。「そこまで
やるのか!」と驚きを隠せない。共に審査に当たった
ベテランの弁護士たちと、感嘆の念を共有した。
貧困な(それは経済的という意味ではない)、日本の司法
の現場で、苦悩しつつ被告人の人生にかかわっていく
彼ら(彼女ら)の姿は明日の司法への、小さいがとても
輝かしい灯火のように思える。
受賞作は、季刊刑事弁護の次号に掲載される。ぜひ、
多くの方に目を通していただきたいと思う。