本日、名古屋高裁が「名張毒ぶどう酒事件」として有名な、奥西勝死刑囚
からの再審請求を認める決定を出した。死刑事件としては、86年の島田
事件での再審開始決定(翌年確定)以来、実に19年ぶりということになる。
名張毒ぶどう酒事件で再審開始決定 名古屋高裁
http://www.asahi.com/national/update/0405/NGY200504050003.html?t1
<名張毒ぶどう酒事件>奥西勝死刑囚の再審決定 名古屋高裁
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要旨のみ読了した段階であり、未だ決定全文には接していないのであるが、
注目される点は下記のとおり。
第一に、証拠の新規性について、弁護側がおこなった再現実験について
これを認容し、ぶどう酒への毒物混入が請求人以外でも可能であるとす
る証拠を採用した点である。この種の「証拠」に新規性を認めるケースは
ほとんどなかった。これを手がかりに、他の者による犯行の可能性を否定
できないとした。
第二に、重要な証拠物であるぶどう酒の替栓について、歯形であるとした
確定判決の鑑定を覆す、新たな鑑定を採用した点で、この点が自白の
内容との重要な矛盾を生じさせたとしている。
第三に、科学技術の進歩によって、毒物の特定方法が進化し、当時の
認定を覆すことが可能になり、新たな鑑定が提示されこれが認容され、
確定判決での毒物は「ニッカリンT」という認定に重大な疑いが生じた
点である。
第四に、新旧全証拠の「総合評価」において、「確定判決の有罪認定は、
新証拠を加えることによって、合理的な疑いが生じている」とし、白鳥
事件、財田川事件において最高裁によって示された「疑わしきは被告人
の利益にの原則は再審にも適用される」という原則を、忠実に展開した
ことである。
第三の点については、新鑑定をおこなった証人の出張尋問のため、
京都地裁を訪れた弁護団の方と偶然京都でばったりお会いすること
が先日あった。 その際、進行についてお話を伺い、吉報を待っていた
ところであったので、嬉しいニュースであった。 開始決定が確定した
わけではないが、その日が待たれる。
同事件については、以下の書が大変参考になる。
六人目の犠牲者―名張毒ブドウ酒殺人事件
江川 紹子 (著)
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江川氏がまだそれほど有名ではなかった頃の作品だが、事件の
被害者5名の命に、更に死刑判決を下された奥西氏が六人目と
して加えられる、というえん罪を訴える書である。
同書は今から10年以上前、1994年の刊行であるが、既に当時
から、入れられた毒物はニッカリンTではないという指摘が弁護団
からなされており、それについては、同書249頁以下でも紹介され
ている。