NHK、取り調べ映像を放送 「可視化」の特集番組で
http://www.47news.jp/news/2013/09/post_20130924213704.html
昨夜、ようやく(!)NHKのクロ現で「可視化」特集が流れた。
ここでは、いちおう可視化の専門家となっている管理人の立場から
放送内容についてコメントしておきたい。
1. 可視化とは「録画」なのか「録音」なのか?
可視化の目的が、取調べの監視や適正化ということであれば、
別に「映像」は必須ではない。「音声」だけでも十分であろう。
番組では、被疑者の「結果的に」という供述が、裁判での無罪
判決の切り札になった、と肯定的な視点で描かれていた。
よく考えれば、これは別に「録画」されている必要はない。
供述態度まで見たいなら映像が必要だが、態度が調書に記される
なら別にして、供述内容の記録ならば、「音声」だけでもよいはず。
2.実質証拠について
公判廷で得られた供述でないもの、つまり公判廷外での供述は
証拠法上「伝聞証拠」と位置づけられている。別に伝え聞きである
必要はなく、自分で書いた日記やメモであっても、「伝聞証拠」
なのだ。一般社会のイメージとは異なる。
ということは、取調録画映像、音声は、「伝聞証拠」になる。
なのに、それを堂々と法廷で再生してしまっていいのか?
本人が法廷で否認しているのに対して、取調で自白しているからって
それを流してしまうって、証拠法違反でしょう、という視点が欠けて
いる。
3.可視化の弊害論
全面可視化すると、組織犯罪とかで支障が生じる、と反対派は言って
いるという紹介はあった。
だけど、それはあくまで「想定」される危険である。
これに対して部分可視化に、それも取調官の裁量に委ねると、危険で
むしろえん罪を作り出す危険性がある。
それは「想定」ではなく、実際に可視化先行国のアメリカで起きている。
ビデオで堂々と自白していたケースで、後からDNA型鑑定で無実が
証明されている。
ちょうど、「捜査研究」という雑誌に「警察における取調べの録音・録画
の試行の検証について(前編)」という記事が載っているのだけれど、
録音録画しようとしたら組織犯罪の捜査に支障をきたした、という
実例は「ひとつも!」紹介されていない。
弊害論を論証するのは難しいのはわかるが、実際にすでに検証を
おこなっていてその弊害が具体的に示されていないのであれば
説得力を欠く。
放送では、この部分、賛否の主張だけが紹介され、その論拠にまで
掘り下げがなかった。ネタがあるのに、残念だ。
4. 映像のインパクト
友井記者が少し触れていたが、取調録画の画面をよくみると、
9分の4が被疑者のみのアップ、9分の1が取調室全体を写す。
取り調べる側の顔は映らない。
ダニエル・ラッシターというオハイオ大学の心理学の教授率いる
グループが、このカメラのアングルの生み出す「バイアス」の実験
をしている。くわしくは拙論考*や拙著をお読み頂きたいのだが、
要するにこういうことだ。
見る人は「映像の影響を受ける」。
実験では、映像の上で(音声はいずれも同じ)被疑者の顔を見て、
取調官の顔を見て、任意性信用性判断をさせると被疑者の顔を
見た方が取調官の顔を見て判断するよりも高得点を得てしまう、
と言う結果がでた。
これを専門用語でカメラ・パースペクティブ・バイアスという。
つまり、検察側が提案するように「実質証拠」なんて、とんでもない!
という示唆がはっきりでているのだ。
こうした「掘り下げ」がなかったのが、残念だ。
*「録画された自白 : 日本独自の取調べ録画形式が裁判員の判断に与える影響 」
若林 宏輔. 指宿 信. 小松 加奈子 他
法と心理12巻1号89-97頁(2012)
・・・・ということになる。
放送に至ったことは喜びたいが、とりあえず辛口の番組の感想まで。