ご存知の通り、一昨日、2017年6月28日、鹿児島地方裁判所は原口アヤ子さんの三度目の再審請求について、これを認め、再審開始の決定をしました。決定自体には画期的内容も含め、解説すべき点が多々あるのですが、請求人が90歳という高齢で認知症を患っていることもあり、検察庁には開始決定に抗告せず、速やかに再審公判の開始に協力いただきたいと思います。そうした思いを刑事法学者も共有しており、同日、検察庁に申し入れをした次第です。ここに全文を公開します。
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大崎事件再審開始決定に対して即時抗告しないことを求める刑事法学者声明
2017年6月28日、鹿児島地方裁判所は大崎事件第三次再審請求に対して開始決定を言い渡しました。私たち刑事法学者は、この決定を心から歓迎すると共に、検察官が即時抗告を行うことなく速やかに請求人に対する再審公判が開始されることを求めるものです。
大崎事件は1979年に発生し、請求人は1995年の第一次請求以来、実に20年以上にわたって無実を訴え、再審で無罪を勝ち取ることを願ってこられました。
再審請求審が積み重ねられていく中で、有罪とした確定判決が共犯者とされた人たちや第三者の供述だけに依存し、いかに脆弱なものであるかということがますます明確になってきただけでなく、警察や検察はそうした本件の有罪を支える脆い構造が露見しないよう、合理的な疑いを抱かせる証拠を隠し続けてきたことも明らかになってきました。
そのような中で、今回鹿児島地方裁判所は、明確に共犯者や第三者の供述の信用性を否定し、確定判決に合理的な疑いが存在することを示したのは必然であったと言えるでしょう。
私たちは、再審開始決定に対する検察官による不服申し立てが誤判救済という再審制度の目的にそもそもそぐわないと考えるものですが、特に大崎事件に関しては以下の諸点から請求人の再審公判が直ちに開かれるよう求めます。
確かに、現行法上再審開始決定には不服申し立てが許されることとなっており、これまでも少なくない事案で開始決定が覆ったことが確認されています。周知の通り、本件再審の第一次請求では2002年3月に一旦鹿児島地裁で認められ開始決定がなされています。その後2004年12月に開始決定を取り消す決定が福岡高裁宮崎支部により出されていました。日本の刑事再審の歴史を振り返ってみても、同一請求事件について二度の開始決定が言い渡されてその後開始が取り消されたような事案は存在しません。経験則から言っても、本件開始決定を確定させることに何ら問題があるとは考えられません。
また、諸外国の実情を見ても、再審開始決定に対する国側の不服申し立てを許容している例がほとんどなく、比較法的にみても我が国の再審請求制度が請求人にはあまりに厳しいハードルを設けているという知見を見過ごすことはできないでしょう。
そもそも請求人は事件発生後の逮捕以来、一度たりとも自白をしたことはありませんし、その主張は一貫して自身の関与を否定するものとなっています。更に、重要なことには、当初請求人の犯行を認めていた共犯者とされる方々もその後請求人の関与はおろか自身の無実すら訴えるようになっていました。証拠構造の観点からもここまで破綻した事案は過去に例がないと言えるほどです。
何より、請求人は90歳という高齢にあり、しかも心身の健康が危ぶまれる状態に置かれているところ、仮に即時抗告がなされて開始決定が確定するまでに更に年月を要することとなるのは人道的見地から決して許されるものではありません。本件の再審開始決定が確定することによって我が国の刑事司法に対する信頼が失われるということは考えられず、むしろ反対に、請求人の訴えと鹿児島地方裁判所の判断を受け止めて再審公判へと進むことこそ多くの国民から信頼を勝ち取り、正義の実現に寄与するものとなるでしょう。
以上の理由から、私たち刑事法学者は大崎事件の再審開始決定を速やかに確定させ、請求人に対して再審公判の機会が一刻も早く与えられるよう強く求めるものです。
2017年6月28日
刑事法学者有志
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