本日、福岡高等検察庁は大崎事件第三次再審請求につき、先だって福岡高裁宮崎支部が行った、再審開始決定を維持する判断に対して最高裁に特別抗告するという愚挙を行いました。
請求人はすでに90歳という高齢であり、三度も司法から再審方向への判断が下されたにもかかわらず、事実上は事実認定に対する不服申し立てであるにもかかわらず、判例違反を根拠とする形ばかりの特別抗告を行ったわけです。
こうした姿勢は、正義を求めるべき公益の代表者たる検察の姿として最も相応しくないというべきです。日本法の母法であるドイツ法ではすでに再審開始決定に対する検察抗告を廃止しました。わが国も一刻も早く再審制度の見直しに着手すべきでしょう。
以下、高裁での即時抗告審決定後にまとめた、特別抗告断念を求める学者声明を公表し、多くの方々と思いを共有したいと思います。
大崎事件再審開始決定を支持した即時抗告決定に対して特別抗告しないことを求める刑事法学者声明
2018年3月15日
刑事法学者有志声明
2018年3月12日、福岡高裁宮崎支部は、大崎事件第三次再審請求にかかり昨年鹿児島地裁で出された再審開始決定を支持する判断を示しました。私たち刑事法学者は、この即時抗告審の決定を心から歓迎するものです。そして、昨年の開始決定の際に、私たちが即時抗告を断念するよう強く求めたにもかかわらず、検察庁が抗告を行なった結果、開かれるべき再審公判の機会が遅延させられてしまっている事態に強い憤りを覚えると同時に、今般、検察庁による即時抗告につき棄却決定がなされたことに対し、検察庁において特別抗告という手段が取られることなく、速やかに再審公判が開かれることを求めるものです。
大崎事件は1979年に発生し、請求人は1995年の第一次請求以来、実に23年にわたって無実を訴え続け、再審で無罪を勝ち取ることを願ってこられました。請求人はこれまで一度も自白をしたことがなく、一貫して自身の関与を否定されてこられました。
そうしたところ、既に裁判所から、第一次請求について2002年に、第三次請求について昨年と、二度にわたって再審開始決定が出されていることは、確定判決が共犯者や親族といった第三者の供述のみに依存した脆弱なものであったことを明確に物語っていると言えるでしょう。
確定判決ではそうした危うい証拠構造が見逃されていましたが、これまでの再審請求の中で未提出の証拠が数多く開示され確定判決の矛盾が明らかとなり、心理学者による供述心理鑑定によって第三者の供述には体験性が乏しいことが明らかにされ、その結果、確定判決の核心であった供述の信用性が揺らぐことになってきたわけです。
確定判決に合理的な疑いが存在することがこれだけ明らかになってきた以上、今回の即時抗告審の決定は当然の結果と言えるでしょう。
長年再審無罪を求めてきた請求人の年齢は既に90歳に達しており、人道上の観点からもこれ以上の再審公判の遅れは許されることではありません。本件では既に裁判所から三度も有罪の確定判決に疑いがあることが示されてきたことを踏まえ、検察庁においては特別抗告を断念すべきです。
そもそも特別抗告は憲法違反や憲法解釈の誤り、最高裁判例と相反する判断がなされた場合に認められる大変例外的な上訴であり、即時抗告審においてそうした事由に該当するような誤りが発生したり、判断がなされたりしていないことは明らかです。
早期の再審公判の機会を保障することこそ、正義の実現の名に相応しいと言えるでしょう。
私たち刑事法学者は、大崎事件の再審開始決定を速やかに確定させて、請求人に対して再審公判の機会が一刻も早く与えられるよう強く求めるものです。そのため、検察庁において特別抗告を断念されるよう切に要望します。
2018年3月15日刑事法学者有志42名